§他感作用の強い植物を利用した農地管理(その1)
今すぐ利用可能な被覆作物:ヘアリーベッチ・ムクナ・ナタマメ
農業環境技術研究所 他感物質研究室
室長 藤井 義晴
§ケイ素の生物学-9-
京都大学名誉教授
高橋 英一
§米の食味に対する土壌タイプ及び施肥窒素の影響
富山県環境科学センタ一 生活環境課
副主幹研究員 岡山 清司
(前 富山県農業技術センター 農業試験場 土壌肥料課)
農業環境技術研究所 他感物質研究室
室長 藤井 義晴
他感作用(アレロパシー)は,一般的には「植物が放出する化学物質が他の生物に阻害的あるいは促進的な何らかの作用を及ぼす現象」を意味する。他感作用では害作用が顕著に現れることが多いため,阻害作用のみと誤解されることがあるが,促進も含む概念である。
最近の研究は,昆虫・微生物・動物に対する作用に広がっており,最も広義には「植物,微生物,動物等の生物が同一個体外に放出する化学物質が,同種の生物を含む他の生物個体における,発生,生育,行動,栄養状態,健康状態,繁殖力,個体数,あるいはこれらの要因となる生理・生化学的機構に対して,何らかの作用や変化を引き起こす現象」,すなわち化学物質による生物個体間の攻撃,防御,協同現象,その他の情報伝達に関する相互作用を意味する。
他感作用の特徴として,その作用の限定性がある。どんな植物に対しても,いつでも他感作用を示すとはいえず,ある植物の生育を抑制するが特定の植物には全く効果がないといった特異性を示すことが多い。このような特性を利用して,特定の雑草のみを抑制し,作物には害を与えない植物の利用が効果的である。
また,他感作用は単純な現象ではなく,
1)葉など地上部から揮発性物質として放出される揮散,
2)生葉あるいは植物体の残渣や落葉・落枝等から雨や霧滴などによって濾し出される溶脱,
3)根など地下部から滲み出る滲出等の経路で色々な生物に作用する複雑な現象
である。
二次代謝産物は,タンパク質,核酸,脂質や糖などの生命に不可欠の物質,すなわち一次代謝産物とは異なり,特定の植物に特異的に存在する物質であり,大量に存在することも多い。例えばコーヒー豆やお茶の葉に含まれるカフェイン,タバコの葉のニコチンなどが著名である。このような物質の存在意義は不明で,老廃物あるいは,貯蔵物質との説があった。近年,このような物質の意義は,植物が自らの身を守るために進化の途上で身につけた防御物質であるとする「他感作用仮説」が有力となっている(ハルボーン,1981)。
ヘアリーベッチは,ソラマメやカラスノエンドウの仲間で,明治時代に牧草として導入された。花がフジに似ているのでシラゲクサフジ,ナヨクサフジの和名がある(写真1)。秋まきで春先~初夏に圃場を全面被覆して雑草を完璧に抑制し,開花後一斉に枯れて敷きわら状になること,10アールあたり10~25kgの窒素固定をして緑肥としての利益もあること,花外蜜腺を持ちテントウムシを集めて生物相を多様にし害虫密度を下げること,他感作用が強いことから,果樹園の下草管理や休耕地・耕作放棄地の雑草管理に最適と考え,現在普及を薦めている(藤井,1995)。

ヘアリーベッチの他感作用は根から出る物質,および被覆下の密閉空間に充満する揮発性物質によるものと考えている。広葉雑草を強く阻害するが,イネ科には効き目が少ないことが特徴である。
我が国の耕地面積の5%以上に増加している休耕地を保全する植物として,ヘアリーベッチの導入を試みた。その結果,播種量は10aあたり3~4kgで,寒地では9月下旬~10月,暖地では11月頃までに播種すると,ほぼ年間雑草を管理出来ることが分かった。
ベッチは開花後一斉に枯れて敷き藁状になるので,刈り取りの必要がなく,省力的である(写真2)。枯れ跡から徐々に雑草が発生し,ギシギシ,メヒシバ等の発生が見られることがある。ベッチの他感物質はイネ科植物に効きにくいので,イネやトウモロコシと共栄関係にあるが,メヒシバ等イネ科雑草に注意する必要がある。

ベッチを連作した水田の復田後の稲への悪影響は認められなかった。むしろ,地力向上効果がある。また,跡地では雑草発生がきわめて少ない。
ヘアリーベッチはカキ・ナシ・ウメ・ミカンなどの草生栽培に利用可能である(写真3)。著者らの研究より先に,岐阜県本巣郡の棚橋武治さんは,この地方のカキ園草生栽培に導入され,今ではこの地方の8割約600ヘクタールに普及している。著者らの研究後,香川県のナシ園,愛媛県のミカン園に導入され,除草剤の大幅な削減などの効果を上げている。現在,高知県果樹試を始め,各地の試験場でも研究が開始されている。

ベッチの被覆は,裸地に比べ夏期・昼間の地温上昇を約2℃抑え,夜間・冬季の低温を緩和する傾向がある。また,降雨後の土壌水分を保持する能力がある。更に,残さをスイカやカボチャ等の敷きわら替わりに利用することが考えられる。
播種時期は,暖地では10月~11月の秋まき,北海道や東北の寒地では4月~5月の春まきが良い。播種量は,10アールあたり3~4kg。
散播するだけで発芽するが,軽く覆土をすることでは発芽率が向上する。種子の価格は1kgあたり600円~1000円程度で品種によって異なるが,大手の種苗会社で販売しており,農協等を介して入手可能である。
冬期の生育は緩慢であるが,春先に急速に成長する。5~6月に開花し,7月上旬頃,最高気温が30度位になると一斉に枯れて敷き藁状になる。乾燥草重は10アール当たり300~700kgである。留意点としては,枯葉に他感作用の残効は無く,夏~秋に徐々に雑草が発生すること,自然下種は少ないので毎年播種した方がよいこと,翌年に直後にムギを栽培する場合は種子の混入に注意する必要があること,がある。
「はっしょうまめ」は別名を「おしゃらくまめ」ともいう。著者らはブラジルから導入した経緯から学名のムクナと呼んできたが,ハッショウマメという和名があり,江戸時代には西南暖地や八丈島などで栽培されていたようである。しかし,現在では栽培されていない。
やせた土地でも生育し,良い緑肥となること,種子は食用に,茎葉は牧草になり多収であること,繁茂して地表を覆い雑草制圧作用があること,病害虫の被害を受けにくく線虫密度を減らすこと,イネ科と共栄関係があること,体内に薬用成分を含む有用作物であることから,復活が望まれる豆である。写真4に示すような大型の蔓性マメ科作物である。

ムクナの雑草抑制効果と他感作用の可能性については,ブラジルの宮坂四郎博士から教わった。ムクナはブラジルでハマスゲやチガヤのような難防除雑草を抑えるのに用いられている。抑制力の主因は被覆力による光の遮蔽と考えられていたが,抽出した成分による雑草抑制効果から,他感作用の関与も考えられ,精製した結果,特殊なアミノ酸であるL-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン,略してドーパを同定した(図1)。ドーパは葉や根の生体重の約1%も含まれており,広葉雑草の生育を強く阻害するが,トウモロコシ,ソルガムやイネなどのイネ科植物は阻害しない(藤井,1990)。

ドーパは,脳内の神経伝達物質であるドーパミンやアドレナリンの前駆体であり,この性質から,パーキンソン病の特効薬として用いられている。しかし,ドーパは生合成の中間体であり,不安定な物質でもあり,通常の組織中に多量に存在することはほとんどない。ムクナは極めて異例な植物といえる。ドーパが昆虫の忌避物質であることが報告されており,昆虫の殻の硬化に関与するチロシナーゼを阻害することも報告されている。
また,ムクナには,マリーゴールドのように直接線虫を殺す物質は含まれていないが,線虫にとって不適当な宿主で,栽培を続けると線虫密度を低下させると報告されている。
大きな根粒をつけて窒素固定をする優秀な緑肥となる。ブラジルでは,長年の大規模機械化農業の結果,土が堅くなり,表土の流出,土壌の乾燥,地力の減退,雑草の蔓延,病害虫の多発を招くようになった弊害を克服するためにムクナが導入され大きな成果を上げている。
イネ科と相性がよく,トウモロコシ,ソルガム等と混植して収量を上げる。共栄関係は養分の寄与が主と考えられるが,生育促進物質の関与も示唆されている。
茎葉の生産性が高く,粗タンパク量も多いので優れた飼料になり,トウモロコシに混合することで更に飼料価値が向上する。アメリカ南部や南米で牧草として栽培され,種子や莢の粉末は配合飼料に,乾草やサイレージにして利用することもできる。
インドネシア,マレーシアでは,種子を水に十分浸漬後,煮たり醗酵させて食用としたとの記録がある。中国や台湾では,豆腐に,わが国ではキントン,餡,煮豆として利用されたといわれる。種子はソラマメに似た大きさで,煮豆にすると,味はインゲンに似ている。
ムクナは無限生長型のマメで生育期間が長く,収穫時期が揃わない欠点がある。また,鞘にちくちくする毛が生える品種もあるが,今後これらが改善されると,重要な食糧になると期待される。
播種適期は本州中~西部では5~6月で,遅霜の心配がなくなってから播く。播種量は60cm~1m間隔に点播,あるいは10aあたり4~5kg。蔓性種と矮性種がある。蔓性種はクズに似て,蔓が四方八方ヘ5~6mも伸びるので,種子をとるには丈夫な支柱が必要である。緑肥用には草丈約80cmの矮性種(アナン)もある。8~9月に開花し,10~11月に種子が熟す。
わが国在来の「はっしょうまめ」は比較的早生型であり,鞘にちくちくする毛がない優良品種である。収量は,亜熱帯地方では種子がhaあたり1~5トン,茎葉部は新鮮重で5~70トン収穫可能である。「はっしょうまめ」とは一本の個体から八升とれるの意味ともいわれる。種子は現在のところ福井県の種苗会社「ふくたね」で販売している。
注意すべき点としては,
①鞘のビロウド状の毛が皮膚に触れたり,汗をかいたとき毛穴に入るとたいへんかゆく
なることがある。
②寒さに弱く霜にあたると一夜で枯れる。逆にこの特性のため,日本本土では雑草化の恐れはない。
③雑草や線虫抑制作用は農薬のように顕著ではない。
④わが国では初期生育が遅く,春先の抑草効果は期待できない。また他感作用はイネ科雑草に効かない。
⑤蔓が鋤き込み時に機械に絡まることがある。
ナタマメはさやが大きく,鉈(なた)のような形をしているのでこの名がある(写真5)。日本では戦前までは各地で栽培されていた。現在も若いさやを福神漬に利用しているが,その原料は台湾等から輸入されている。

小型のタチナタマメは草丈約60cmである。ブラジルで緑肥として利用され,ハマスゲ等の難防除雑草の抑制に利用されている。病害虫に強く,巨大な根粒をつくり窒素固定をするので,開拓地や休耕地管理に適している。
ナタマメは,ブラジルで,塊茎をつくるために除草剤による防除が困難なハマスゲの密度を減少させることが知られている。この抑制作用には,生長速度の早さ,養分吸収力の強さ,葉を展開して他の雑草を日陰にしてしまう効果が考えられるが,含まれる他感物質も関与しているようである。
圃場試験を行うと,その雑草抑制作用はヘアリーベッチやソバほど完璧ではなく,3割程度の雑草が残ることがある。日本の本土ではナタマメの初期生育が遅いこと,つるの伸びないタチナタマメは被覆効果による雑草抑制が期待できないことから完璧な抑草が難しいものと思われる。
ナタマメの他感物質として,葉や根や種子に含まれる特殊なアミノ酸のカナバニン(図1)を同定した。カナバニンは5~50ppmの低濃度で雑草の生長を阻害する活性がある。ムクナに含まれるドーパがイネ科植物を阻害しないのに比べ,カナバニンにはイネ科植物を阻害する力がある。そのため,メヒシバなどのイネ科雑草が繁茂する畑ではムクナ以上の雑草抑制効果が期待できる。
カナバニンは図1に示すように,アルギニンの類似体である。アルギニンは幼児では合成しにくいので,半必須アミノ酸と呼ばれ,動物には普通に存在するアミノ酸であり,動物や昆虫で有毒なアンモニアを無毒な尿素に変えて排泄する尿素サイクルと呼ばれるアンモニア解毒機構に関与している。カナバニンはアルギニンにそっくりの構造をしているので,この尿素サイクルに入り込んでアルギニンの邪魔をし,その結果有毒なアンモニアが代謝されずに蓄積することになり,昆虫が死亡する。それで,昆虫はカナバニンを含むナタマメを避ける傾向にあり,ナタマメの葉はほとんど虫害を受けない。
以上のようにナタマメには他感作用による雑草・害虫抵抗性があり,マメ科で窒素固定をする緑肥作物であることから,有望な被覆作物である。若いさやや種子に含まれるカナバニン含有量を減らす方向に育種すれば,21世紀の新たな食糧資源になることも期待される。 (つづく)
アレロパシー全般に関しては,
1)「アレロパシー」,学会出版センター(1991)ライス著,八巻敏雄・安田環・藤井義晴訳
2)「雑草管理ハンドブック」,朝倉書店(1994)pp.49-61,アレロパシー
被覆植物に関しては、
3)「畦畔と圃場に生かすグラウンドカバープランツ」,農文協(1998)有田博之,藤井義晴編著
を参考にされたい。
個々の植物については、
4)藤井義晴,マメ科植物「ムクナ」とは,農業および園芸,65巻7月号,p.835-840,65巻8月号,945-948(1990)
5)藤井義晴:ヘアリーベッチの他感作用による雑草の制御-休耕地・耕作放棄地や果樹園への利用-,農業技術,50,199-204(1995)
6)藤井義晴:アレロパシーのおもしろ世界(1)~,現代農業1998年1月号から連載中。
を参照されたい。
京都大学名誉教授
高橋 英一
前回述べたように植物のケイ酸吸収には積極型,排除型および中間型の三つのタイプがみられます。しかし根を切除するといずれも培養液のケイ酸濃度を変化させず,水に伴った吸収になります。したがって植物のケイ酸吸収性の違いは根にあることが分かりますが,それは根のどの部分にあるのでしょうか。
養水分の通路には細胞膜に包まれた細胞質部分(シンプラスト)を経由するルートと,細胞質の外側の部分(アポプラスト)を通るルートがあります。ケイ酸は細胞壁は自由に通れますが,細胞膜は極めて通りにくいので専らアポプラストのルートをとると思われます。
根の横断面の構造は図18のようです。ケイ酸は細胞が密に並んでいる表皮層のアポプラスト部分(細胞壁)を通って根の内部に入りますが,多くの植物にとってはここが先ず障壁になっているようです。表皮層の内側には数層の柔細胞からなる,細胞間隙に富む皮層組織があり,ケイ酸はこの組織の細胞間隙と細胞壁からなるアポプラスト部分(その発達の程度も植物によって異なる)を通って根の中心部ヘ向かって動いてゆきます。皮層と導管を内蔵している中心柱の境には,上下左右の細胞壁がスベリン化され肥厚したカスパリ一帯で固まれた内皮層があり,ここを通過するにはいったん細胞質に入る必要があります。

従ってここでケイ酸の移行は妨げられると思われますが,実際しばしば内皮層近傍にケイ酸の沈積が観察されています40)。しかしイネでは導管液のケイ酸濃度は外液にくらべて非常に高く,注1)またイネのケイ酸吸収はNaCN,DNP,24-Dなどの代謝阻害剤によって著しく阻害されるので,エネルギーを使ってケイ酸を通す特殊な仕組みのあることが予想されますが,詳しいことは分かっていません。
根に入ったケイ酸は細胞壁,細胞間隙,導管からなるアポプラストルートを蒸散流によって地上部ヘ運ばれ,その末端部で蒸発による濃縮を受けて沈積します。イネでは表皮細胞やそれが分化して生じた毛,孔辺細胞,機動細胞,シリカ細胞注2)などの異形細胞や籾殻などが著しくケイ化を受けます41)。また導管壁にもケイ酸が沈着しますが,それには細胞壁のポリフェノール成分が関与しているといわれています42)。
表7は十分量のケイ酸を与えて水耕したイネ,トマト,キウリの地上部と根部のケイ酸含有率およびその比の15の試験例についての平均値です。これらはいずれもSiO2 100ppmを含む培養液で育てられていますが,根のケイ酸含有率はほぼ等しいのに比して,地上部の含有率には大きな違いがみられます。これはトマトではケイ酸の移行は根で抑えられるのに対して,キウリではほぼ蒸散流とともに地上部に移行することを示唆しています。何故なら蒸散係数を500とすると,100ppmのSiO2は5%に濃縮されることになるからです。イネではさらにこの値を大幅に越えており,導管へのケイ酸の濃縮作用を反映しています。

第6回のケイ藻のところで、ゲルマニウムがケイ素のトレーサーとして利用できることを述べましたが,陸上植物にも利用されている例を次に紹介します。
表8は短時間のゲルマニウム酸の吸収に対する根部の役割の違いを,植物種間で比較した結果です43)。ゲルマニウム吸収能の高いイネの地上部への取り込み量は,ケイ酸の場合と同様に根部の切除によって大幅に減少したのに対して,ツル性インゲンでは切除の影響は認められず,ゲルマニウム吸収能の著しく弱いヒルガオ,アサガオでは逆に増加しています。この結果からヒルガオ,アサガオのケイ酸吸収は排除型,ツル性インゲンは中間型に属すると思われます。

図19はゲルマニウム吸収に対する代謝阻害剤の影響をみたものですが,イネではケイ酸の場合と同じく著しい吸収阻害が起こっています43)。これに対して根がゲルマニウムを排除したアサガオでは,初期には対照にくらべて吸収はむしろ増加しました。このことからも,根におけるケイ酸の選択吸収特性には根の代謝が密接に関係していることがうかがわれます。

イネのゲルマニウム吸収は図20に示すようにケイ酸の共存によって著しく抑制されますが,トマトにはほとんど影響がみられません。またイネのゲルマニウム吸収はケイ酸の共存濃度に比例して著しく抑制されます(図21)。これはイネにおいては,両者が共通の機構によって吸収されることを示唆しています。


イネ地上部のケイ素含有率が著しく高いのは,直接的には根の特異的なケイ酸吸収能によりますが,蒸散作用も関係します。これはイネの葉身の一部にセロテープを貼って蒸散をとめると,その部分にはケイ素が集積しない(68Geをトレーサーにした実験)ことからも分かります。根で吸収濃縮されたケイ酸は蒸散流によって地上部に運ばれ,蒸発部位周辺でさらに濃縮されゲル化沈積します。これは一種のシンクとして働き,継続的なケイ酸吸収を可能にしています。
組織に沈積したケイ酸は,植物体に機械的強度を付与します。その結果,倒伏や病害虫に対する抵抗性を増し,また過度の蒸散を防ぐなどの効果を発揮します。一方植物に吸収されたケイ酸は,植物が死んで有機物が分解した後も,組織構造のレプリカとして長く土壌中にとどまることが多いので(プラントオパール,ケイ化木など),それによって古代の植生を推察するなど,考古学の研究にも利用されています。
イネのようにケイ酸を多量に吸収する植物では,ケイ酸供給の多少が養水分吸収に影響する可能性があります。しかし水耕液にはケイ酸濃度の指定がないのが普通であるため,その影響は見過ごされがちでした。
図22はケイ酸供給量を5段階に変えて水稲を水耕したとき,生育と養水分吸収がどのように変化するかを見た結果です44)。生育に対する影響は根重には殆ど見られませんが,地上部重とくに稔実粒重はケイ酸供給量(地上部Si含有率)の低下に伴い減少しました。養水分吸収に対しては,蒸散係数(乾物1グラム当たり1日の吸水量)の上昇が見られます。また鉄,マンガンの地上部合有率は著しく増加し,三要素の中ではリン含有率の増加が相対的に大きくなっていますが,吸収の絶対量も生育量の低下にもかかわらず,鉄,マンガンでは顕著に,リンも若干大きくなっています。

蒸散係数の上昇は,大量に吸収され地上部表皮組織に沈積したケイ酸が,クチクラ蒸散抑制の働きをしていることを示唆しています。鉄,マンガンの吸収量の増加は,根の酸化力の低下が原因の一つとして考えられます。
たとえば水耕液からの2価鉄の吸収実験で,前培養のケイ酸供給量が多く,ケイ酸含有率の高かったイネほど溶液中での2価鉄からの3価鉄生成量は多く,逆に鉄吸収量は少なくなることが認められています(図23参照)。また土耕栽培したイネに,潅がい水として蒸留水を与え続けたとき,幼穂形成期に黒色の還元斑が根圏土壌に現れたのに対して,ケイ酸を含む水(SiO2として100ppm)で潅がいした場合,黒色還元斑は現れなかったという結果もあります45)。

イネのような沼沢植物の根には酸化力があること,発達した通気組織によって地上部から酸素が送られていること,それには光合成によって発生した酸素が含まれていることが知られています。根の酸化力へのケイ酸の関与はイネの特性かも知れませんが,その意義は大きいと思われます。
イネのリン酸とケイ酸の吸収における関係は複雑です。リン酸の吸収は,培養液中の濃度が高くなるにつれてケイ酸欠如による増加が顕著になりますが,リン酸濃度が低い場合はケイ酸の影響は見られません。
例えば培養液中のリン酸濃度を低(1ppm P2O5),中(15ppm P2O5),高(50ppm P2O5)の3段階に変えて,イネ幼植物をーか月間水耕した結果は図24,25のようでした46)。リン酸濃度が中(Mp),高(Hp)の場合は,ケイ酸(100ppm SiO2)の添加によって生育は増加したにもかかわらず,リン酸の吸収量は減少したのに対し,リン酸濃度の低い場合(Lp)は若干増加しています。


このケイ酸添加によるリン酸吸収量の減少は,無機態リン酸部分に起こっており,有機態リン酸部分は生育量を反映して増加しています。一方ケイ酸の吸収量は培養液中のリン酸濃度の影響をほとんど受けませんでした。またケイ酸の添加は地上部の鉄,マンガン濃度を,いずれのリン酸レベルにおいても減少させました。
ここで紹介したケイ酸の養水分吸収への影響が,イネの生育にどのような効果をもたらすかについては次回に述べます。
注1)導管液中のケイ酸はその濃度から考えて,ある種の有機化合物とキレートをつくって溶解している可能性がある。その一つにトロポロン誘導体があり,このキレート化合物はpHが6.8~7.0に上昇すると分解してケイ酸を遊離し,過飽和になって重合するという説がある41)。
注2)シリカ細胞は分化の途中で核を失い,細胞質もなくなってゆく。するとこれに並行してケイ酸が細胞内に入り,充填されてゆく41)。
40)A. G. Sangster and D. W. Parry:Ultrastructure of silica deposit in higher plant. 文献6)のpp383-407
41)P. B. Kaufman et al:Silica in shoots of higher plants. 文献6)のpp409-449
42)J. A. Raven:The transport and function of silicon in plants. Biol. Rev. 58,179-207(1983)
43)高橋英一,松本英明,蕭聡明,三宅靖人:ゲルマニウム吸収性の植物種間差異について,日土肥誌47(6)217-221(1976)
44)奥田東,高橋英一:ケイ酸の供給量が水稲の生育ならびに養分吸収におよぼす影響,日土肥誌32(11)533-537(1961)
45)奥田東,高橋英一:水稲の鉄吸収および根の酸化力におよぼすケイ酸施用の影響,日土肥誌33(2)59-64(1962)
46)J.F. Ma and E. Takahashi:Effect of silicon on the growth and phosphorus uptake of rice. Plant and Soil 126,115-119(1990)
富山県環境科学センタ一 生活環境課
副主幹研究員 岡山 清司
(前 富山県農業技術センター 農業試験場 土壌肥料課)
米をめぐる情勢は,近年ますます厳しくなってきている。生産過剰に加えて,外国からのミニマムアクセス米の輸入が重なり,米の価格も産地間の競争による市場によって決定されるようになってきている。
米をとりまく政策においても,従来の食管制度の中では,農家が生産したものは,品質に関係なく政府に買い上げられたが,これからは,自分の責任において品質の高いものをより低コストで生産していかなければならなくなってきており,農家は「量から質ヘ」と姿勢の転換が要求されている。
米の品質では,未熟粒や胴割粒の混入等の外観形質が重要であるが,消費者からは「良食味」に対する要求も大きなウェートを占めるようになっている。このことから,生産者サイドとしても「良食味」は米の産地間競争の重要な要素となっている。
米の食味に関する研究は,いままで数多くなされてきており,食味に関する要因が明らかになっている。その中でも,米の蛋白含量が食味と最も関係が深いとされている。
米の蛋白含量を決定する主な要因の一つは,窒素の施肥量であり,その窒素を水稲の生育期間中にどのように施用するかという肥培管理法が重要となってくる。また,その肥培管理を土壌タイプや気象等に応じてどのように調節するかが課題となっている。
一方で,例えば「A地区の米は粘土分の強い水田でとれるので米に粘りがあっておいしい」等,米の食味に対して土壌条件が絶対的であるような言い方をされることも多い。
この試験の線本の発想もこのような話題に答えようとするところからきている。
米の食味と土壌との関係において,食味に最も影響するとされる窒素成分が土壌タイプによってどのように水稲に利用されるかが重要になってくる。
富山県では主な土壌タイプとして,砂質土,黒ボク土,グライ土,黄色土があり,この中で砂質土,黒ボク土,グライ土の現地ほ場において,土壌タイプの違いによる施肥窒素の利用率の検討を行った。
現地ほ場の設定場所,土壌条件及び施肥窒素の利用率は,表1に示したとおりである。

試験処理は,ほ場に30×30cm枠を設置し,その中に重窒素でラベルされたアンモニア肥料(硫安)を施用した。供試品種は,コシヒカリで,1枠に2株の稚苗(4本/株)を植え付けた。収穫期に試料を採取し,質量分析計ANCA-MSで重窒素濃度を分析し,施肥窒素の利用率を求めた。以下,施肥窒素の利用率の検討はこの方法でおこなった。
ほ場の土壌条件はT-Nが黒ボク土で,0.36%,グライ土で0.25%,砂質土で0.13%,また,CECもそれぞれ異なっている。
このような条件下で,施肥窒素の利用率は,基肥では土壌間差が比較的小さいが,穂肥の利用率では砂質土で小さく,グライ土で大きく,土壌間差がみられた。
しかし,穂肥の利用率の差は,土壌タイプに大きな原因があるのではなく,ほ場の水管理等の管理に原因があるのではないかと考えられた。すなわち,砂質土のほ場では穂肥施用後にほ場が比較的早く乾燥状態になっており,また,グライ土では,ほ場の乾燥が遅く,根からの養分の吸収が遅くまで続いたためと考えられた。
先の試験において,ほ場の管理条件や気象条件の影響が施肥窒素の利用率に影響を与えることが懸念されたので,この要因を取り除くために,農業試験場内に人工ほ場を造成して,施肥窒素の利用率や土壌タイプがコシヒカリの食味に与える影響を検討した。
人工ほ場は,従来のほ場の土壌を削除し,砂質土,黒ボク土,グライ土,黄色土を搬入し,基盤土及び表土(作土)をそれぞれ15cmの深さで造成した。この人工ほ場では,水管理,気象条件,作土深がほぼ一定であり,考えられる変動要因は,土壌タイプと土壌の肥沃度となった。
このような人工ほ場において,施肥窒素の利用率を検討し,表2に示した。

収穫期における基肥の利用率は,約30%であり,穂肥では約50%で,基肥,穂肥とも土壌タイプによる差異は認められなかった。
ただし,有効分けつ終期の6月16日の基肥利用率には差異が認められ,砂質土,黒ボク土,グライ土では20%程度で比較的大きく,黄色土では13%と小さかった。
黄色土で6月16日の基肥の利用率が小さかったのは,供試土壌の分析値(表3)の中で,CEC×仮比重の値が他の土壌に比べて大きく,施肥したアンモニアが土壌粒子に吸着され,土壌溶液中の濃度が低くなったためと考えられた。しかし,このことについては補完するデータが欠けており,今後検討を要する。

収穫した米の食味試験を行った結果を図1に示した。この試験は,米を炊飯し,試験場の別のほ場で収穫したコシヒカリを標準米として比較しており,玄米の窒素濃度で3段階のランク別にして検討した。

これによると,食味値と玄米窒素濃度との間に負の相関があることが認められたが,同じ窒素濃度のランク内では,土壌タイプによる食味の差異は認められなかった。すなわち,米の食味に関しては,玄米窒素濃度の影響が強く,玄米窒素濃度が同一レベルであれば,土壌タイプの関与は小さいものと推察された。
水稲に対する窒素は,一般的には速効性の化成肥料が基肥や穂肥として施用されるが,堆肥やLP肥料等の緩効性として徐々に吸収されるような窒素の吸収パターンが米の窒素濃度に影響を与えるのではないかと考え,その前段階として基肥と穂肥として施用された窒素について茎葉,精米,ヌカ,モミガラの部位別に分けて施肥窒素の吸収割合を検討した。この試験は,現地ほ場で行われた。試験結果は表4,表5に示したとおりである。


表4に示したのは,基肥窒素の利用率を部位別に求めたものである。基肥は全体として約30%の利用率であるが,その中で精米の部分は約半量占めており,続いて茎葉に多く含有されていた。しかし,表5において,部位毎に吸収された収穫期における基肥窒素の割合をみると,茎葉,精米,ヌカ,モミガラの中の各部位ではほぼ同じであった。
このことは,米の食味において,土壌タイプや施肥等の違いによる窒素の吸収パターンや速度の変化よりも,量的差異がより大きく関係するのではないかと考えられた。
近年,省力栽培と環境への負荷の軽減を目的として,LPSS100を使用した側条施肥による全量基肥栽培が大規模農家を中心に普及してきている。
しかし,次の段階として,このLPSSが従来の速効性の穂肥に比べて米の食味にどのような影響を及ぼすかが課題となってくる。
このため,穂肥として重窒素でラベルされたLPSS100と慣行のアンモニア肥料を施用し,水稲の施肥窒素の利用率を求めた。
試験結果は表6に示したとおりである。

茎葉と穂の部分に分けて施肥窒素の利用率を求めたが,茎葉においても穂の部分においても施肥窒素の利用率は同程度の値が得られた。
このことは,穂肥としてLPSSのような肥効調節型肥料を使用した全量基肥栽培においても速効性肥料による慣行分施栽培でも,米の食味に及ぼす影響は大きく異ならないのではないかと考えられた。
平成9年度に富山県内の各普及センターを中心にして,LPSSによる全量基肥と慣行施肥栽培の比較試験が行われた。
試験は,ほぼ同じ農家の隣接するほ場で実施し,供試品種はコシヒカリであり,土壌は県下に存在するすべての土壌タイプにわたっている。
現地で水稲の栄養状態を直ちに判断して管理作業の参考にするために葉色指数(草丈×茎数×葉色×1/1000)が注目されている。葉色指数の測定は,草丈,茎数や葉色(葉色板や葉色計)とも特殊な器具も必要でなく,ほ場現場で即座に対応できる。また,窒素吸収量との相関関係が非常に高く,これにより,水稲が適正な生育をしているか判断でき,穂肥の施用量の決定も容易になる。
図2は,水稲の生育の節目とされる幼穂形成期の7月13日における葉色指数と着粒数との関係を示す。

LPSSと慣行肥料ともほぼ同じ線上に分布していることから,LPSSと慣行肥料は,水稲に吸収された窒素の量が同じであれば,肥料や土壌タイプが異なっても同程度の着粒数が確保できると判断された。
この結論は,先に重窒素を利用して検討した枠試験の結果と同じものと考えられた。
富山県では食味が良く,しかも,高収に結びつくコシヒカリの適正着粒数は,28000程度とされており,図2からは,この適正な着粒数を確保するための葉色指数は,120~130となる。また,図2においてプロットの下限をたどっていけば,160以上は必要でないとみられる。
図3は,着粒数と収量との関係である。プロットの分布の変異幅が大きくなっているが,着粒数と収量との関係においても図2で議論したこととほぼ同じことがいえる。

近年,米の食味に対する要求は,ますます大きいものになってきており,そのなかで,ほ場の土壌タイプによって食味が影響されるかが重要な課題となった。
このため,米の食味に最も関係が深いとされている蛋白含有量の検討,すなわち,施肥された窒素成分がどのように水稲に吸収され,米に移動するかをコシヒカリを対象に土壌タイプ別に検討した。
(1)気象条件,水管理等を一定にした人工ほ場(砂質土,黒ボク土,グライ土,黄色土)において,基肥,穂肥の利用率を検討したところ,土壌間差はほとんどみられなかった。同時に行った米の食味試験においても玄米窒素濃度が同一レベルであれば,土壌間差はみられなかった。
(2)肥効調節型肥料(LPSS100)と慣行の速効性肥料による穂肥とを比較したところ,水稲における窒素の利用率はほぼ同じであり,また,同じ窒素吸収量のレベルでは,水稲の着粒数や収量も同程度であることが認められた。このようなことから,穂肥に肥効調節型肥料を使用した全量基肥栽培でも速効性肥料による慣行分施栽培でも,米の食味に及ぼす影響は同じではないかと考えられた。
1)富山県農業技術センター:土壌肥料試験成績書,平成3年~9年度
2)岡山清司,石黒哲也:米の食味に対する土壌タイプ及び施肥窒素の影響,日本土壌肥料学会中部支部,平成10年10月